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京都地方裁判所 平成3年(ヨ)1571号 決定 1992年8月06日

債権者

京都仏教会

右代表者理事長

有馬頼底

右訴訟代理人弁護士

樺島正法

仲田隆明

松本裕子

松本俊正

吉田克弘

菊地逸雄

佐々木寛

債務者

株式会社京都ホテル

右代表者代表取締役

柴田顯

右訴訟代理人弁護士

田辺照雄

債務者

清水建設株式会社

右代表者代表取締役

今村治輔

右訴訟代理人弁護士

岡碩平

小野一郎

岩﨑雅己

主文

一  本件申立てをいずれも却下する。

二  申立費用は債権者の負担とする。

理由

第一当事者の求めた裁判

一申立ての趣旨

1  債務者らは、別紙「建築計画の概要」記載の建築工事をしてはならない。

2  申立費用は債務者らの負担とする。

二申立ての趣旨に対する債務者らの答弁

主文第一項と同旨

第二当事者の主張

一申立ての理由

1  当事者

(一) 債権者は、その傘下に金閣寺、銀閣寺、清水寺等の有名大寺院を始め、京都の名刹として知られている寺院多数を抱え、京都府下の唯一の教団・宗派を越えた仏教伝導弘通者の地域的連絡機関として、その役割を果たし続けてきた法人格なき社団である。

(二) 債務者株式会社京都ホテル(以下「京都ホテル」という。)は、本件で問題となっている中京区河原町通二条南入一之船入町所在の「京都ホテル」を始めとして数軒のホテルを経営する会社であり、債務者清水建設株式会社(以下「清水建設」という。)は、債務者京都ホテルから別紙「建築計画の概要」記載の建築工事(以下「本件工事」という。)を請け負い、その建築工事を施工している会社である。

2  被保全権利その一、平成三年一一月二〇日の協定(和解契約)に基づく債務履行請求権

(一) 債務者京都ホテルは、右のとおり債務者清水建設に請負わせ、京都市中京区河原町通二条南入一之船入町五三七番地の四(以下「本件土地」という。)所在の「旧京都ホテル」を取り壊し、同地上に、別紙「建築計画の概要」記載の地上一六階・地下四階、建物の高さ六〇メートルの「京都ホテル」(以下「本件建物」という。)の建築を計画し、平成三年二月一四日付けで建築基準法五九条の二所定の許可を受け、更に同年七月二三日には同法六条三項に基づく建築確認を得た。

そして、現在、現地では、既に本件建物の建築作業が進められている。

(二) ところで、債権者と債務者京都ホテルとの間では、本件工事に関し、歴史的・文化的環境を背景とする京都の景観をいかに保護すべきかという点を中心とした紛争があり、右計画通り本件工事を施工しようとする債務者京都ホテルと、本件工事が竣工した時には京都の景観が著しく害されると主張し、本件工事を中止させるべく同ホテルの宿泊客の拝観拒否をもって対抗しようとする債権者とが厳しく対立していた。

(三) そして、債務者京都ホテルは、種々折衝の末、平成三年一一月二〇日、「債務者京都ホテルは、本件建物の建築を中止する。地上四五メートルより高い建物は建築しない。右新建築計画の作成については、債務者京都ホテル、債務者清水建設及び債権者の三者の協議によって決定する。」旨の協定を締結し、本件工事を延期した。

(四) しかるに、債務者京都ホテルは、平成三年一二月五日、右協定に基づく新しい建築計画を何ら検討せず、債権者側に事前に通告・協議することもなく、右協定の全面的な破棄を宣言し、同月九日、地鎮祭を行い、従前通りの計画に基づく本件工事を再開した。

よって、債権者は、右協定に基づく債務履行請求権を被保全権利として本件工事の差止めを求める。

3  被保全権利その二、宗教的・歴史的文化環境権(景観権)

(一) 京都は西暦七九四年に都と定められて以来、今日まで一二〇〇年以上の長きにわたり、日本文化の中心地として世界に名を馳せてきた。その長い歴史の中で築き上げられてきた京都という街全体、すなわち京都の市民一人一人、京都の建物一つ一つ、道路の一本までが日本国民全体の歴史的・文化的遺産である古都を構成する要素となっている。とりわけ古都がその歴史的価値を有しているのは、仏教の寺院群の存在にある。毎年全世界から数百万、数千人もの人々が京都を訪れるのは、清水寺を見、金閣寺、銀閣寺を訪れたいがためである。そして右の超有名寺院やそれを取り巻くように立ち並ぶ数多くの名刹は、東山、北山及び西山の各連峰や京都市内の自然と一体となって右歴史的古都を構成している。更に右各寺院は歴史上重要な役割を果たしてきたものであり、現在に至るまで右各寺院において仏教を中心とする宗教活動・布教活動が行われ、京都の町衆と一体となって生き続けていることが京都の歴史的・文化的価値の重要な要素を構成している。

(二) このように債権者を構成する各寺院は、右歴史的・文化的環境(宗教的・文化的遺産)の重要な要素なのであり、各寺院によって構成されている債権者は、右宗教的・文化的遺産を後世に伝えるべき使命を担っているだけでなく、右各寺院が右歴史的・文化的環境と渾然一体として存立し続け、その宗教活動を行っていくことに極めて重大な関心を持たざるを得ないことから、右宗教的・文化的遺産が保持されることに密接な利害関係を有しており、宗教的・文化的遺産を破壊・侵害する者に対し、その破壊・侵害を排斥する権利、すなわち宗教的・歴史的文化環境権(景観権)を有する。

(三) 本件土地に建築されようとしている高さ六〇メートルの本件建物は、前記(一)の京都の歴史的環境に調和しないだけでなく、右各寺院の歴史的価値を相当程度減少させるものであり、また本件工事を是認すれば将来的には京都を高層ビルの乱立する都市にしてしまうことになり、ひいては文化都市の魅力は喪失し、京都を訪れる者が少なくなり、その結果債権者を構成する右各寺院の拝観者が減少し、それによる宗教活動が阻害されるだけでなく、経済的利益も害されることになる。

よって、債権者は、宗教的・歴史的文化環境権を被保全権利として本件工事の差止めを求める。

4  保全の必要性

債権者は、現在本案訴訟を準備中であるが、その結果を待っていては本件建物が完成してしまい、再建築を裁判所が命じることが事実上不可能となり、その既成事実の重みによって債務者らに様々な口実を与えることになることが明らかである。また本件協定による建築計画見直しが不可能となること必定である。

二申立ての理由に対する債務者らの認否及び主張

(債務者京都ホテル)

1 申立の理由1(一)の事実は不知。債権者が権利能力なき社団としての組織を有することに疑義がある。

同(二)の事実は認める。

2 同2(一)の事実は認める。

同2(二)の事実について

債権者と債務者京都ホテルとの間に景観保護をめぐって意見の相違があり、対立していたことは認めるが、それは単なる事実上の意見の対立にすぎず、和解契約の要素である法律上の紛争(債権者の主張する宗教的・歴史的文化環境権の侵害の有無)について争いがあったのではない。

3 同2(三)の事実中、工事延期の事実は認めるが、協定が締結された事実は否認する。

債権者と債務者京都ホテルは、会談が物別れに終わるのを回避するために、西山が会談において再三提案していた「本件建物の高さを低くすることができないのであれば、債権者と債務者京都ホテルが共同記者会見をして、債務者京都ホテルが右点の検討をする旨の声明文を発表する」旨の提案をやむなく受け入れ、その限りの合意をしたものである。

本件建設計画の変更は、債務者京都ホテルの経営破綻を来すことが確実なため、その不可能なことは明白であったが、債権者の京都ホテル等の宿泊客に対する拝観停止という強大な圧力に懊悩した債務者京都ホテルの高橋前社長が、西山の「検討の結果計画案通りということになってもその理由が納得できるものであれば、高さにこだわらず検討した結果を評価する」旨の言葉に動かされ、債権者との対立の解消を願って声明文の発表を決意したものである。

右声明文の発表が私法上の法律効果の発生を意欲する意思表示にあたらないことは明らかであり、債務者京都ホテルは、書面又は口頭のいずれによっても右意思表示をしたことはない。

仮に債権者主張のような合意・協定が成立していたとしても、それが法律上有効となるためには、債務者京都ホテルの取締役会の決議(商法二六〇条二項本文後段)が必要であるが、本件においては、そのような決議も存在していない。

4 同2(四)の事実中従前通りの計画に基づく工事を開始したことは認め、その余は争う。

債務者京都ホテルは、本件建設計画の変更が可能であるか否かの検討を、債務者清水建設の意見も聞きながら行ったが、どうしても不可能という結論に達したため、その旨債権者に通知した。

5 同3の主張は全体的に争う。

債権者の主張する宗教的・歴史的文化環境権は存在しない。

6 同4は争う。

債権者は、本件建物が完成したことによって何らの損害も蒙らないから、保全の必要性の存しないことは明らかである。

(債務者清水建設)

1 申立の理由1(一)の事実中債権者が法人格なき社団であることは否認し、その余は不知。債権者は、会員が意思決定に関与する途がないなど団体としての主要な点が確定せず、権利能力なき社団とは認められないから当事者能力を有しない。また、債権者は、本件建築工事に関して個別的具体的な利害関係を有していないから、当事者適格を欠いている。

同(二)の事実は認める。

2 同2(一)の事実は認め、同(二)及び(三)の各事実は否認する。

債権者の主張するような協定は存在しないし、仮に協定が成立したとしても、その内容は道徳的義務を定めたにすぎない。

また、債務者清水建設は協定の当事者ではないから、右協定は少なくとも債務者清水建設に対する関係では何らの法的拘束力もない。

債務者京都ホテルは、平成六年末までに、工事を竣工させなければ巨額の税負担をしなければならない状況下で建設計画を推進していたものであり、右計画を変更した場合における各種申請・協議等の手続に要する時間を勘案すると到底同年末までに工事を竣工させることは不可能だったのであるから、かかる状況下で債務者京都ホテルが取締役会の決議等の意思決定手続を経ることなく計画を変更することはありえないことである。

債務者京都ホテルは、債権者の建設反対行動に苦慮し、右事情から計画変更が不可能であることを説明して、理解を得ようとして西山と会談していたのであるが、債権者の拝観停止という最悪の事態を回避するために、西山から妥協案として出された「見直しがだめなら検討する旨の記者発表をする」旨の提案を受け入れ、記者発表をしたのである。

3 同2(四)の事実については、債務者京都ホテルの認否と同じ。

4 同3(一)及び(二)の主張は否認ないし争う。

債権者の主張するような宗教的・歴史的文化環境権は存在しない。

5 同3(三)の事実については、債務者京都ホテルの認否と同じ。

6 同4の主張は争う。

第三当裁判所の判断

一当事者

1  <書証番号略>によれば、債権者は京都府下に存する寺院、宗務支所、仏教系諸団体によって組織された団体であること、債権者は、構成員の連絡提携のもとに布教伝導活動に計画性と具体性を持たせ、併せて仏教諸活動への指導・助言・援助活動を図り、以て京都府における仏教文化の発展と普及・歴史的環境の保護を目指し、社会に貢献することを目的とするものであり、その構成員の変更にかかわらず団体が存続すること、その機関として、原則として構成員の中から理事会において推薦された評議員をもって組織される評議員会、評議員会において選任される理事及び監事、理事の互選で選任される理事長を有し、理事長は債権者の業務を総理し、債権者を代表するものと定められていること、理事は、理事会を組織し、特定の重要事項については評議員会の意見を聴いて、業務を議決し執行すること、評議員会及び理事会の議事は出席者の過半数又は三分の二以上の多数による議決により決せられること、債権者の資産は理事長が管理することとされていることが一応認められ、右認定を覆すに足りる疎明資料は存しない。

以上の事実関係のもとにおいては、債権者は、権利能力なき社団であって、民事訴訟法四六条によって当事者能力を有するものというべきである。

2  申立の理由1(二)の事実は、当事者間に争いはない。

二申立の理由2(協定に基づく債務履行請求権)について

当事者間に争いのない事実に疎明資料及び弁論の全趣旨を総合すると、債務者らの本件工事計画の策定過程、債権者の対応及び債権者と債務者らの交渉過程について、以下の各事実が一応認められ、右認定を覆すに足る疎明は存しない。

1(一)  債務者京都ホテルは、昭和六二年ころから、同ホテルが経営する本件土地所在の本件建物の建替計画の立案を開始したが、そのころ、京都市においても建築基準法五九条の二の規定によるいわゆる総合設計制度(敷地の規模、空地の割合、公開空地の設置等一定の要件を満足した建築計画に対して、延べ面積の敷地面積に対する割合(容積率)の制限及び高さの制限を、総合的な判断に基づいて緩和し、市街地の環境の整備改善に資することを目的とする制度)が実施されることを知り、同年春から秋にかけて、在来設計と、建設省の基準に基づく右総合設計制度を利用した設計とを比較検討した結果、同制度によれば、公開空地を提供する代わりに建物の容積率の割増しが得られること、右公開空地が建設予定地付近の河原町御池の緑地的な部分に使用できることから、同制度に従った建替計画(以下「本件計画」という。)を策定するという方針を決定した(<書証番号略>、債務者京都ホテル代表者尋問の結果)。

(二)  昭和六三年四月一日、京都市において、前記総合設計制度に係る許可の取扱い及び基準を定める同市総合設計制度取扱要領が施行されたが、同要領の定める基準によれば、総合設計制度の要件を満たす建築計画については、一定基準以下まで建物の高さの制限を緩和すること、ただし古都の景観の保全又は市街地の環境に対して支障が生じると認める場合は緩和しないこととされていた。そして、本件土地においては、本来四五メートルのところ、最高六〇メートルまで高さの制限が緩和され、その高さの建物を建築することが可能であったことから、債務者京都ホテルは、同年一〇ないし一二月ころから、建替予定の建物の高さを六〇メートルとして本件計画を具体的に進めることとし、平成元年一月開催の取締役会においてその旨報告し、同二年五月開催の取締役会において正式に決定し、設計施工を債務者清水建設に請け負わせた(<書証番号略>、債務者京都ホテル代表者尋問の結果)。

(三)  債務者京都ホテルは、平成二年四月二六日、京都市に対し、前記要領に従い本件計画の基本計画案を提出して、前記総合設計制度の許可を受ける前提となる事前相談を申請し、同市建築審査会と事前協議を開始し、また開発指導要綱に基づく許可、中高層建築物指導要綱に関する届出、高度地区計画書に基づく届出等について同市関係各機関との事前協議をする他、消防施設に関し所轄の消防署と協議するなどの手続を経た上、同年一二月一一日、同市々長に対し、前記総合設計制度の許可を申請をし、同三年二月一四日、建築審査会の同意を得、美観風致委員会の審査を経た市長から右申請の許可を受け(右許可手続の過程で、公開空地の内容、建物の美観、既存の街並景観との調和、歴史的建物からの眺望阻害の有無等の検証がさまざまな角度から行われた。)、同年七月一日、同市建築主事に対し、建築確認の申請をし、同月二三日、建築確認を受けた(<書証番号略>、債務者京都ホテル代表者尋問の結果)。

(四)  これに対し債権者は、平成二年一二月一九日、京都市及び債務者京都ホテルに対し、同京都ホテルの本件計画に反対する旨の申入れをした後、同三年三月一五日、西山に対し、債権者の右反対運動への協力を要請し、同人の承諾を得ると共に、債務者京都ホテルに対し具体的交渉をもって景観反対運動を展開する旨の方針を決定し、同三年四月一〇日、京都市建築審査会に対し、前記総合設計制度の許可の取消し及び本件計画に対する建築確認の差止め(同年九月一七日第一回口頭審査期日において、建築確認の取消しに審査請求の趣旨を変更した。)を求める審査請求の申立てをした他、同年五月二日、右審査会に対し、京都市長がした京都市中京区河原町二条下る一之船入町五三七番地の三八ほか二筆の前記建設予定地付近の道路廃止処分(右処分の申請は債務者京都ホテルによってなされ、右廃止処分後、右道路敷地部分の土地は、債務者京都ホテルの所有地と交換され、本件土地の一部となっている。)の取消しを求める審査請求を申し立てたり、同年七月三日、右廃止処分に関する廃道処分の無効確認等を求める地方自治法上の住民訴訟を提訴する等の争訟を提起した。

確かに別紙図面(一)のとおり、本件土地は押小路通から御池通に南北に通じる二重のかぎ型の京都市道によって東西に分断されていたうえ、西側の主たる土地部分も北に狭く南の部分が東に延びるかぎ型の不整形な形をなしており、土地の有効な利用上相当な不便をかこっていたし、その儘では今回の本件建物の建設には右市道が大きな障害になることは明らかであった。

そこで債務者京都ホテルは、右の不整形の土地をホテル建設に都合のよい形の整ったものに直そうと計画した。そこで右市道のうち障害になる債務者京都ホテルの土地を分断している北側部分(一之船町五三七番五九)をホテルの敷地として取り入れることを考え、そのため京都市との間で右市道敷とホテルの敷地として比較的不必要な部分との交換を画策し、京都市と談合してその承諾をえた。

そして先ず昭和六二年一二月一五日、債務者京都ホテル所有の同所五三七番の五六の土地について新設道路として道路位置指定を受け、そのかわりに右市道部分につき市有地廃道申請をして、同六三年八月一七日、「道路の廃道通知」を受け、同年一〇月一三日、当該道路の廃止が告示された。ついで京都市と債務者京都ホテルとの間で、平成二年二月二八日、右各土地の交換契約が締結された。

その結果、別紙図面(二)及び(三)の記載から明らかなとおり、本件土地は、北東の四筆も買収して整備され、新しいホテルの敷地として、交換前と較べ格段に良くなったことは明らかであるのに対し、市道は一般通行人にとって御池通から押小路通に抜ける通路としての役割が完全に塞がれ、通行路としての価値は半減している。

しかしそれだけに止まらず、更に右の事実について次のとおり二、三の疑問が残る。

(1) 京都市が債務者京都ホテルに所有権を移転した五三七番五九の土地は、256.42平方メートルであるのに対し、債務者京都ホテルが市道として提供した土地は約一四五平方メートルにすぎず、一〇〇平方メートル以上の差があり、少なくとも3.3平方メートル当たり数一〇〇万円もの土地のことであるのに(道路敷ということでなければ、一〇〇〇万円にも達するかもしれない。)、等価値とみての交換というのは疑問が残る。

(2) 右(1)の事実は高々一〇〇平方メートルのことであり、これに対し目をつむるとしても前記のとおり市道を廃止し、債務者京都ホテルの敷地が繋がり且つ形が著しく整ったことにより土地の価値が大幅に増加していることは明らかであるから(証人西山正彦の証言によると一〇〇億円単位の金額であるという。)、このことについて大きな経済的価値の移動が行われた公算が強い。

他方で右西山の指導の下、当時債務者京都ホテル取締役の地位にあった京都商工会議所会頭塚本幸一及び同副会頭小谷隆一が京都市の高層化を推進する張本人であると非難し、同京都ホテルに宿泊しないことを呼びかけるビラを配布し、債権者を構成する寺院の門前に同趣旨の看板を掲示するなどの行動を開始した(その後右両名は、取締役を辞任し、債権者と共に、債務者京都ホテルが六〇メートルの建物を建てることに反対する旨の声明を発表した。)(<書証番号略>、証人西山正彦の証言)。

(五)  平成三年七月上旬ころ、債権者から、債務者京都ホテルの大株主である株式会社ニチレイに対し、解答如何では同年八月一五日のニューヨークタイムスに債権者の(本件計画に反対する旨の)意見広告をだす旨の質問状が送付されたことから、債務者京都ホテルの取締役会において、債権者と接触したらどうかという意見が出され、債権者と密接な関係を持つ西山との接触を求めることが決定された。同年八月二七日に、西山ら債権者関係者と本件計画に関し第一回目の会合が持たれたが、それ以来、債務者京都ホテルは、数次に渡り会談を持ち、債務者京都ホテル代表取締役(当時)高橋正士(以下「高橋」という。)、同専務取締役(右同)柴田顯(以下「柴田」という。)らが、西山らに対し、①本件建物の高さが六〇メートルと決定された経緯、②債務者京都ホテルにおいては、本件建築資金を捻出するために、本件工事予定地の四分の一の共有持分権をケイ・エイチ興産株式会社に対し一九七億円余で売却しているところ(売却益約一九〇億円)、右売却益中の相当額を租税特別措置法六五条の七、同条の八等の規定により繰り延べ納付する計画である(債務者京都ホテルは、課税繰延可能額を約一四三億円と計算している。)が、そのためには本件工事を平成六年末までに完成させる必要があること、③現時点で計画案を変更するとすれば、建物の再設計を初め、前記(三)の場合に準じた京都市に対する各種の申請、関係諸機関との協議等の手続を再び履践しなければならず、これらに要する時間を考えると右②の期間内に建築工事を竣工させることはできないことなどを説明し、本件計画の変更が不可能であることにつき理解を求めた。

これに対し、西山は、債務者京都ホテルに対し、本件計画を変更しなければ、債権者を構成する寺院が拝観停止をする可能性があることを仄めかせながら、本件土地に隣接している広誠院の所有地を債権者が取得する予定であり、建物の高さを四五メートルにするのであれば、これを優先的に譲渡する、そうすれば床面積が増加し営業上の問題はなくなるので本件計画の変更は可能であるとか、あるいは建物の一、二階部分にテナントを入れると、その賃料収入があるから、本件計画によるよりも収益があがるとか主張して本件建物の高さを在来設計による四五メートルにすることを求めていた。そのため、債権者の意向と債務者京都ホテルの説明するところとの接点を見出だすことができず、会談を重ねても話は平行線を辿り続け、結局同年一〇月二八日、債務者京都ホテル側が債権者の意向に沿うことはできないこと、計画通りの建築を進めることを申し向けたことで会談は決裂した。

なお、西山は、会談を重ねる中で、自分たちが納得すれば四五メートルの高さに必ずしもこだわらない、債権者理事長有馬頼底は高さにこだわっているが、こだわらない様に説得中である等と軟化した態度を示したり、更に本件計画を変更する約束ができないのであれば、右計画の見直し(検討)をする旨の共同記者会見をして欲しい、共同記者会見が無理なら債務者京都ホテル単独で右会見ができないか(検討の結果、計画通りに進めざるをえないことになっても、それはやむを得ない。)という案を提示したりもしていた(<書証番号略>、証人西山正彦の証言、債務者京都ホテル代表者尋問の結果)。

(六)  前記会談が決裂する際、西山が、「京都ホテルを潰すつもりで戦争に入る。」「(仏教会所属寺院の)拝観拒否になってもいたしかたない。」などと宣言していたことから、翌二九日、これに危機感を抱いた高橋が、更に同月三〇日、右高橋の命を受けた柴田が、それぞれ右拝観拒否を避けるために西山と面談し拝観拒否の取り止めを懇願するなどしたが、同人の拝観拒否の意向を翻意させることはできなかった。また、柴田は、その際、再び西山から、本件計画を変更する趣旨の記者会見をしてほしい、検討の結果、計画案に戻ってもやむをえないから、何とか記者会見をしてもらいたいなどと提案されたがこれを断り、なお念の為翌三一日、西山に対し、再度同人の右提案を受け入れることはできない旨連絡し、債権者は同年一一月一日、債務者京都ホテル関連施設の宿泊客に対する拝観拒否を同年一二月一日から実施する旨発表した(<書証番号略>、債務者京都ホテル代表者尋問の結果)。

(七)  しかし、高橋は、その後も債権者と債務者京都ホテルとの対立を解消し、債権者を構成する寺院の拝観拒否を回避するため、何度か西山と会談し、従前同様時間的に債務者京都ホテルが本件計画を変更することができない状況にあること等を理解してもらうべく努めたが、同人は、本件計画の見直しが出来ないのであれば、形だけで良いから「検討する」旨の記者発表をすることを求めるばかりであった。

平成三年一一月一九日、高橋は、料理旅館粟田山荘において、同山荘の女将豊田静江を立ち会わせて、西山と会談した。その際、同人から、「私の言う様にしてくれはったら、もう仏教会に勝ったも同じだ。」「私の言う通り検討するということを発表し、その中に従業員が路頭に迷うような事は出来ないと付け加えたらよろしいんや。」「仏教会の目的は京都ホテルでなくJR京都駅なんだ。」「記者会見をして、京都ホテルと仏教会が歩みよったという形にして、その後の事は、自分がちゃんとするから承知してほしい、ゼスチャーみたいなもんや。」などと言葉巧みに説得され、高橋は、右拝観拒否を回避するためには西山の右提案を受け入れざるをえないと決意しその旨承諾した。

高橋は、右提案を受け入れたことを会社にはかるために記者会見の日時を同月二一日としたい旨申し入れたが、記者会見の実現を急ぐ西山に押し切られ、翌二〇日に共同記者会見をすることに決まった(<書証番号略>、債務者京都ホテル代表者尋問の結果)。

(八)  平成三年一一月二〇日、高橋は、同日債権者と共同記者会見をすることを聞き、右記者会見を行うことに難色を示す柴田を説得した後、西山から渡された同人作成にかかる債務者京都ホテル側声明文(別紙声明文目録一記載の声明文)を持ち帰った。高橋は、これを柴田らと共に検討し、右声明文中、「高さを低くするための検討」と記載された箇所を「仏教会の意向を踏まえ検討」に変更し、「皆様方」と記載された箇所の直前に「国内外の観光客並びに観光関連に従事されている」との文言を挿入するなどの修正をした後、債権者との共同記者会見場とされた相國寺大書院に臨んだ。債務者京都ホテルは、本件工事の着工を延期し、再検討する旨の修正後の声明文(同目録二記載の声明文)を、債権者は、同京都ホテルの企業努力を信用し、その姿勢を支持する旨の声明文(同目録三記載の声明文)をそれぞれ読み上げる形で記者会見が行われた。もっとも、その際、債権者側からは、建物の高さに関し、債務者京都ホテルの努力を信じる旨のコメントがなされたものの、本件建物の高さを四五メートルにすることについては何ら触れられなかった(<書証番号略>、債務者京都ホテル代表者尋問の結果)。

(九)  債務者京都ホテルは、前記記者会見後、平成三年一一月二二日に予定していた地鎮祭を取りやめ、同月二五日に開始される工事のための機械・作業員の手配をキャンセルした上、同月二二日から、債務者京都ホテル内部で債務者清水建設の担当者と検討を行ったが、設計変更した場合に許容される期間は最長六か月しかなく建築計画の変更は現実的に不可能であることがあらためて明らかになった。一方、同年一二月二日、債権者は、債務者京都ホテルの建築予定の建物について高さが50.7メートル以上のものは変更を認めない旨の声明を突然発表し、債務者京都ホテルにもその資料を持参した。そのため、債務者京都ホテルは、もはや円満解決の見込みもなく債権者の意向に沿うことはできないと判断し、同月五日、従前の計画通り本件工事を開始する旨の声明を発表し、右工事に着手した(<書証番号略>、債務者京都ホテル代表者尋問の結果)。

以上の事実が一応認められる。

2(一) 右認定の事実によれば、いわゆる総合設計制度を利用して高さ六〇メートルの本件建物を建設しようとする債務者京都ホテルと、右建物は京都の景観を破壊する契機となると主張して強力に建設反対運動を展開していた債権者との間に、対立・緊張関係が存していたこと及び右対立・緊張関係を解消し、債権者の建設反対の意思を翻意させるために、債務者京都ホテルの高橋、柴田らは、債権者と密接な関係を有する西山と会談・交渉していたことが明らかである。ところで、最初の会談が持たれた平成三年八月二七日から同年一〇月二八日までの間は、債務者京都ホテルの高橋、柴田らにおいては、西山に対し、本件計画の変更が時間的・手続的に不可能であることの説明をし、その理解を求めたのに対し、西山においては、主として必ずしも六〇メートルの高さにこだわる必要はないとの立場で反論するなどして、相互に相手方を説き伏せようとする会談が重ねられたものの、結局双方共に相手方を納得させることは出来ず、債務者京都ホテルが、債権者の意向に沿えず、当初の計画を進めることを申し向けることで一旦会談が決裂したものと考えられる。これに対し、その後同月二九日から同年一一月一九日までの間の西山との会談は、右決裂の際、同人から債権者を構成する寺院の拝観停止を宣言され、またその後、債権者により、債務者京都ホテル関連施設の宿泊客に対する拝観拒否が発表されたことから、これに危機感を抱いた高橋が、同人自身あるいは柴田を介し、西山に対し、右拝観拒否の翻意を求めるためになされたものと言うべきである。そして、右会談における議論の重点は、西山の提案する債務者京都ホテルの計画変更が困難であるところから、債権者と同京都ホテルとの対立を解消し、債権者の拝観拒否を回避するために、形だけでも計画変更を検討する姿勢を示す共同記者会見をするという案を債務者京都ホテルにおいて受け入れるか否かにあったと認められる。

債権者は、債務者京都ホテルとの間で、本件建物の建築を中止する、地上四五メートルより高い建物は建築しない旨の合意が成立したと主張するが、前記のとおり右合意を直接に疎明する文書は存在せず、同月二〇日の共同記者会見において別個に発表された二つの「声明文」(<書証番号略>は債務者京都ホテルのもの、<書証番号略>は債権者のそれ)が存在するにすぎない。そして、右二つの「声明文」の内容は、債務者京都ホテルが建設計画を再検討する、という点において両者の表現上の一致が認められるに止まり、進んで、建築物の高度を制限することについての文言上の合致はもちろん、債務者京都ホテルの声明文にさえこれを認めることができない。さらに、債務者京都ホテル側の「声明文」の事前の作成経緯についても、前記認定のとおり、西山が予め作成してきた同京都ホテルの声明文中「高さを低くするための検討」とある箇所を、「仏教会の意向を踏まえ検討」と変更する等の修正が、同京都ホテル側の一方的な判断でなされているにもかかわらず、右声明に対する債権者の対応が、「京都ホテルの企業努力を信じる。」程度に止まっているのであるから、これらの事実に照らしても、債権者と債務者京都ホテル間に、同日ないしそれ以前において、本件建物の高さを四五メートルにする等の債権者の主張に沿う合意が成立したものと認めることは到底できないものである。

(二) なお、証人西山正彦の証言及び同証人の作成した各報告書(<書証番号略>)中には、高橋らは本件計画の変更が不可能であると主張していたものの、高橋自身は本件計画を四五メートルに変更することについて会談当初から好意を示していたところ、会談の過程において西山によって、高橋及び柴田らの本件計画が変更できないとの論拠がそれぞれ論破され、本件計画の変更が十分可能であることを理解させられるに及び、何度か交渉が決裂するなど紆余曲折があったものの最終的には債権者主張の合意をなすに至ったとする部分があるが、右部分は前記各認定事実に反するばかりか、前記認定のとおり、債務者京都ホテルは本件計画の立案・決定、京都市関係諸機関との協議等の手続等について多大な時間と労力を用いて前記総合設計制度の許可、建築確認を受けたものであるという本件計画の進捗過程、ことに債務者京都ホテルは租税特別措置法六五条の七、同条の八等の規定の適用を受けることを企図していたため、本件工事を平成六年末までに竣工させる必要があったことに鑑みると、西山が証言する程度の議論で高橋らが論破・説得されたというのは不自然であり、仮に西山の供述するとおり本件計画を高さ四五メートルに変更する旨の合意がなされたのであれば、債権者と債務者京都ホテルとの間の前記認定のとおりの対立・緊張関係及び何度か決裂しかかったことがあるという本件交渉経過に鑑みて、事後において合意の成否・内容について疑義が生じないように、合意内容を明確に文書化するのが当然であるにもかかわらず、この種文書を作成しようとは一切していないことをも考慮するとたやすく採用することはできない。

(三) なお、債権者は、債務者清水建設との間においても計画を変更し建物の高さを四五メートルにする旨の合意がなされたとも主張するが、債務者清水建設に債権者主張にかかる合意の効果を帰属させるに足る法的根拠は何ら主張されておらず、この点において既に失当である上、前記認定のとおり債務者清水建設は、前記会談に参加せず、かつ債務者京都ホテルが債務者清水建設の代理権等を有していたことの疎明はないから、債権者と債務者清水建設との間に債権者主張の合意が成立していたとは認められない。

3  以上のとおりであるから、申立の理由2の被保全権利については、疎明を欠くと言うほかなく、その余の点について判断するまでもなく、申立の理由2は理由がない。

三申立の理由3(宗教的・歴史的文化環境権(景観権))について

債権者は、前記申立の理由3のとおりの意義・内容を有する宗教的・歴史的文化環境権(景観権)を本件の被保全権利として主張しているので、以下この点について検討する。

京都は、西暦七九四年の遷都以来一〇〇〇年以上もの間王城の地であり、また永い間日本の政治、文化の中心であったところ、歴史的意義を有する建造物、遺跡等が、古都の自然的環境と一体をなして多数存在しており、その歴史的風土は国民の遺産となっている。この京都市の景観を含めた歴史的風土を保存し、後代に継承していくことは国民の課題である(古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法一条)。

もっとも、古都の歴史的風土の保全についても、他の地域環境の保全と同様に、人の社会的経済的活動の自由との調和が図られなければならないから、その方策の決定は、最終的には、民主的手続に従って制定された法律によって定められるべき問題である。

ところで、京都市の都市景観の保全については、さまざまな行政上の法的規制がなされているところ、建物の建築については、建築基準法等がこれを行っている。本件建物は、前記二1(一)ないし(三)において認定したとおり、建築基準法五九条の二の規定による総合設計制度に従って計画されたものであり、その建築確認を得るまでの手続において、景観の保全はもとより、建物の美観、街並みとの調和、眺望等総合的な角度から審査がなされたものであって、違法な点は認められないものである(なお、<書証番号略>によれば、京都市の定めた総合設計制度取扱要領は、建設省通達による適用方針及び技術的基準をもとに、歴史的文化的都市という地域特性と調和を図りつつ、この制度を有効に活用することにより都市基盤の整備及び市街地の活性化を図るため、同制度に係る許可の取扱及び基準を定め運用するとしている。)。

債権者は、被保全権利として宗教的・歴史的文化的環境権(景観権)を主張し、その法的根拠を直接憲法の規定に求めるもののようであるが、その内容、要件等が不明確であって、これを私法上の権利として認めることはできないものといわざるをえない(債権者が具体的にいかなる利害関係を有し、いかなる個別的な利益を侵害されるかにつき疎明もない。)。

従って、債権者主張にかかる申立の原因その3は失当というべきである。

四結論

以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、本件申立ては、いずれも理由がないことになるから、これを却下することとし、申立費用の負担について民事保全法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官下村浩蔵 裁判官土屋文昭 裁判官吉井広幸)

別紙

建築計画の概要

敷地の地名地番 京都市中京区河原町通二条南入一之船入町537番地の4

用途

ホテル

敷地面積

7244.09平方メートル

構造

鉄骨造

延べ面積

58,965.08平方メートル

高さ

60メートル

階数

とう数

地上 16階

地下 4階   1とう

建築主

住所 京都市中京区河原町通二条南入一之船入町537番地の4

氏名 (株)京都ホテル

代表取締役社長 高橋正士 電話 211-5111

設計者

住所 大阪市中央区本町三丁目5番7号

氏名 清水建設株式会社 大阪支店 一級建築士事務所

一級建築士登録55385号 腰塚達郎 電話 06(263)2811

工事施工者

住所 大阪市中央区本町三丁目5番7号

氏名 清水建設株式会社 大阪支店

取締役支店長 久保力 電話 06(263)2811

別紙声明文目録

一、 本日、株式会社京都ホテルは、今月二二日着工の工事を延期し、高さを低くする為の検討に入ります。

当ホテルには一〇〇年以上に渡り、京都市民及び世界中のお客様に御利用いただいてまいりました。

今回の問題につきましては、皆様方に御迷惑をお掛け致します事はさけたいと考え、かつ、京都の一二〇〇年の歴史をおもんばかり今回の決断をいたす事になりました。全社員の希望と夢と生活をかけた大工事ですが、時間が限られております。当社は、数一〇〇人の社員と共に寝食を忘れ夜を徹し、再検討いたしますのでどうぞよろしくお願い致します。

平成三年一一月二〇日

株式会社 京都ホテル

代表取締役 高橋正士

二、本日、株式会社京都ホテルは、今月二二日着工の工事を延期し、仏教会の意向を踏まえ検討に入ります。

当ホテルには一〇〇年以上に渡り、京都市民及び世界中のお客様にご利用いただいてまいりました。

今回の問題につきましては、国内外の観光客並びに観光関連に従事されている皆様方にご迷惑をお掛け致します事はさけたいと考え、かつ、京都の一二〇〇年の歴史をおもんばかり今回の決断をいたす事になりました。全社員の希望と夢と生活をかけた大工事ですが、時間が限られております。当社は、数一〇〇人の社員と共に寝食を忘れ夜を徹し、再検討を致しますので、どうぞよろしくお願い致します。

平成三年一一月二〇日

株式会社 京都ホテル

代表取締役 高橋正士

三、本日、仏教会は京都ホテルの建設計画の再検討の決定を受け、その決定に対し深甚なる敬意を表するものであります。

仏教会の願いは、京都は千年の古都であり、その古都は京都の町衆によって守られるというものであります。

今回の京都ホテルの新たなる決定は、京都の歴史的な価値を尊重し、今後京都の町と町衆と共に歩もうとする姿勢であると受けとめます。今後、仏教会は京都ホテルが京都の町に溶け合った健全なる発展を望むものであります。

京都ホテルが利益追求のみに固執せず建築実行の最終段階に於いて、ホテルの高さを見直すという決定に至った事は、今日までの経過をかんがみれば、その決定がいかに重大なるものであるかを理解するものであります。また、京都ホテルが企業努力に於いて、何メートル高さを低くすることが可能であるかという問題に対しては、その努力を信じるものであり、その姿勢を支持するものであります。

今回の決定は、今後の京都の都市計画に大いなる警鐘を鳴らすものと信じ、京都仏教会は今後とも京都の将来を町衆と共に見守りたいと願っております。

平成三年一一月二〇日

京都仏教会

理事長 有馬頼底

別紙図面(一)ないし(三)<省略>

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